韓国の山へ
ソウルの山へは 地下鉄に乗って 「岳人」07年5月号投稿
「地下鉄で山に行ってきました」なんて言ったら、いったいどこの山かと驚かれるだろう。だけど、ソウルではそれがごく普通のことである。例えば、東京でいう大手町のような駅から30分ほど地下鉄に乗り、バスに乗り換えて20分も行けば、もうそこが登山口である。
韓国でも登山は人気がある。休日の街中では、日帰り登山に向かう人や山から帰ってきた人をそこかしこで見かける。日本のように何日もかけて縦走するような大きな山が少ない一方で、日帰り登山が健康的で気軽な楽しみとして幅広く浸透しているようだ。
私も、ソウルへの旅のついでに、といった感じで山に行ってきた。しかも、妻と3歳の娘を連れて、である。冬だったので、頂上まで行かなくてもインスボン(仁寿峰)を見られればいいや、というお気軽なプランであった。
そのときの地下鉄での様子。山での混雑を避けるために月曜日に出かけたので、通勤ラッシュが終わる頃を見計らって地下鉄に乗った。ソウル中心部から北へ向かうが、地下ゆえに山が近づいてくる風景を楽しめないのが残念である。
中心部を過ぎて、空いた席に座った。隣にも向かいにも、いかにも登山姿のおじさんが座っている。小さなリュックを持って、トレッキングシューズを履いて。休日に丹沢や奥多摩へ向かう電車の中で見かけるのと同じ格好である。わくわくした表情まで同じであった。ただ、ひとつ大きく違うのは韓国人が黒色を好むということで、2人とも黒っぽい服装をしていた。
おじさんもひょっとしたら同じ山へ行くのかも知れないと思って、妻が韓国語で尋ねたが、違っていた。私たちの降りる少し手前の駅で、まず向かいに座っていた方が降り、その後に隣の方が降りた。いろいろな山をいろいろなコースで登れるということも、私たちには驚きだった。
そして、私たちも降りて地上に出たが、駅の周りまだまだビルの立ち並ぶ街中だった。仮に電車が地上を走っていても山の景色は楽しめなかったかもしれない。だけど、駅からバスでわずか20分で終点の登山口に着いた。
ソウルは大都市ではあるけれども、標高500~800メートル程度の山に囲まれた盆地にあるので、中心部から少し離れた途端に山がつらなっている。こんなことも登山が人気の理由だろうと思われる。
(文 内野慎一 「岳人」2007年5月号 かわら版に掲載「ソウルの山は 地下鉄で登山口へ」)