日韓の交流
8000m峰14座登頂オム・ホンギルさんが河童橋に
「小梨平まで行ってくる」と用事を片づけに、赤ん坊をおぶって出かけたはずのかみさんが、なぜだかすぐに戻ってきた。
その後ろをあざやかな色のウェアに身を包んだ人たちがついてきている。
ときどきあるように、困っている韓国人登山者と出会って、アドバイスしようと戻ってきたのかと思ったのだが、そうではなかった。
あのオム・ホンギル(厳弘吉)氏を連れてきたのだ!
8,000メートル峰14座を完登した登山家である。
実は、河童橋でばったり出会ったとのこと。
「写真とうりふたつだ!」
とかみさんは心の中で叫んだらしいが、そりゃご本人だから当たり前でしょ。
でもたしかに、韓国のMOUNTAIN誌の裏表紙の広告の大きな写真とか記事で毎月のように目にしているのと全く同じ姿でそこに立っておられた。
「あっ、たしかに写真と同じだ」
興奮のあまりコーヒーをいれる手が震えてしまった。
同行の大韓山岳連盟の事務局長イ・ウィジェ氏らとわずかな時間立ち寄っていただいたのだが、互いに知っている両国の岳人のことや、この山荘のことをかみさんと韓国語で話していた。
私たちの情報発信の活動についてもお話しさせてもらった。
そもそもかみさんの用事というのは、韓国人登山者の多い小梨平の施設にハングルで作成した「秋山登山の注意事項」を提供することだった。
それを最初に見てくれる人がオム・ホンギルさんとは。
嬉しすぎる偶然。
「こういうものがあればいいね」と。
嬉しすぎるお言葉。
がっちりとした体格で、それほど背が高くないのが意外だったが、私たちにとってはおなじみの、日焼けした親しみある笑顔で話しかけてくださったのが印象に残った。
この日の出会いは、これからもしっかりキルチャビ(みちしるべ)を続けようという大きなエネルギーになった。
同じ日、同じ一行で別行動されていた韓国ユネスコ協会副会長イ・ビョンワン(李炳完)氏も訪ねてくださった。十数年前に日本の岳友と一緒に来たときの記憶をたどってきたとのこと。
来てみたら、今は韓国語の分かる管理人がつとめていて、びっくりされたかもしれない。
この3年後、2012年に竹内洋岳さんが日本人初の14座登頂を達成されました。
(内野慎一 2015年9月28日改訂)