日本の山で
黒いウェアの韓国人を見かけましたか?「岳人」07年11月号投稿
槍・穂高周辺で夏山登山の韓国人が増えている。顔や体型は日本人と見分けがつかないので、なにげなく歩いていて、すれ違う時に聞こえる韓国語で「あれっ」とようやく気がつく。彼らは声が大きいので分かりやすい。それは私の実家のある関西のおばちゃんグループの賑やかさにひけをとらない。
私は上高地で働いているので韓国語を耳にする機会も多い。そうこうするうち、言葉の届かない遠くからでも韓国人登山者を識別できるようになってきた。
特徴は、まず団体で歩いていることが多いということ。もちろん日本人の団体も大勢いるのでこれだけでは識別できない。団体があたかもユニフォームのように黒を基調とした服装をしていれば韓国人である可能性がひじょうに高い。ハチが寄ってくるんじゃないかと心配になるくらいみんな黒っぽい。
それに加えて「若者っぽい」機能的なデザインのウェアの人が多く、たとえ年配のグループであってもとても颯爽としていて「強そう」な印象を受ける。一方、山でよく見かけるポケットのついたベストやボタンのついた長袖シャツなどを着ている人はあまりいない。ちなみに女性はキャップやサンバイザーをかぶった人が多い。
あるとき、「どうして黒色を好むのか?」と尋ねてみたら、意外な答えが返ってきた。韓国では機能性を重視した素材やデザインの登山ウェアに人気があるのだが、それらはつい最近まで黒ばかりでカラフルなものがなかったとのこと。なるほど、好みではなく供給側の事情だったのか。
また、日本人と比べて登山者の年齢層が若い。日本では60代の中高年が中心だとすれば彼らは平均して10歳は若いように思う。上高地から入って山中2泊で槍からキレット、穂高を越えて岳沢を下ってくることもざらにあるが、団体でやるには厳しい行程だと思う。若さでカバーしているのかもしれないが、ちょっと心配だ。
今度、夏山で黒っぽい集団を見かけたら「アンニョンハセヨ(こんにちは)」「ジョシマセヨ(お気をつけて)」と声をかけてみてはいかがか。人なつっこい彼らのことだから笑顔を返してくるに違いない。そんなきっかけで交流が始まるのも楽しい。
ただ、人なつっこさの裏返しで遠慮しない性格ゆえ、山小屋で韓国焼酎をどんどんすすめられる羽目になるかもしれないが、そこは各々の自己責任で対応されたい。韓国人は酒が強い人が多いようなので、念のため。あわせて、彼らが飲みすぎの様子ならば「クァウン ハジマセヨ(飲みすぎないように)」とのアドバイスを日本の山の先輩としてお願いしたい。
(文 内野慎一 「岳人」2007年11月号 かわら版に掲載)