日本の山で
レポート 北アルプスの韓国人の声 2014年夏 横尾での遭対協相談員の報告
レポート 北アルプス登山中の韓国人の声 2014年夏 横尾での遭対協相談員の報告 PDF
2014年の夏山シーズン、韓国人登山者の多い日に遭対協(北ア南部地区山岳遭難防止対策協会)の登山相談員をつとめました。(7月30、31日、8月2、3、15日の5日間、朝から昼にかけて)夏期常駐の相談員とともに、横尾の登山道脇に立ち、通りかかる人や横尾山荘前の広場のベンチで休憩している人に、韓国語で「どこへ向かいますか」など話しかけ、行程やパーティーの構成などを尋ねながら、質問や相談に応じました。
韓国の夏休みに人が集中
韓国では8月初めに夏休みをとる会社が多いため、この時期に登山者が集中しました。8月2日(土)には100人以上の韓国人登山者が横尾を通過しました。(なお、この5日間に欧米人の数名ずつの個人的なパーティーが何組か通りかかりました。)
一方で、8月中旬の日本ではお盆の時期には連休はなく、旅行会社としても日本国内の混雑を考慮して避ける傾向にあるようです。韓国でお盆にあたる日は「チュソク(秋夕)」という連休になりますが、日にちは年によって変わります。9月上旬から10月上旬の間です。
行程― 槍穂縦走、山中2泊が定番
韓国の旅行会社では、槍沢から槍ケ岳に登り、大キレットを越えて前穂高岳まで縦走し岳沢に下るコースが定番になっています。宿泊は小梨平で前泊、山小屋2泊(槍ケ岳山荘、穂高岳山荘)です。下山日は平湯に泊って温泉で汗を流すのも人気のパターンのようです。
登山1日目の行程を考慮して、上高地まで入って前泊するのが大半ですが、ソウル(仁川(インチョン)空港)からでなくプサン(釜山)の空港からの飛行機便では上高地の夜間通行止めに間に合わないそうです。そのため、平湯に前泊して、朝のバスで上高地に移動し歩き始めることになります。実際に、プサンからのパーティーは横尾通過が遅めでした。(午前10~11時頃)「(槍ケ岳に登るなら)午前9時頃に横尾を通過してもらいたい」(松本警察署 岸本班長・当時)といった呼びかけは引き続き重要と思います。
公募ではない「山岳会+ガイド」ツアー
個人的なパーティーは多くても6、7名程度。旅行会社が関与するものは人数が多く10数名~30、40名。韓国人パーティーの特徴として、旅行会社が公募したツアーではなく、山岳会の仲間などで独自に募ったグループが、旅行会社に手配やガイド(日本登山経験者)の同行を頼むケースが多いです。もちろん公募ツアーもありますが、「山岳会+ガイド」の形態が主流といえます。その場合は山岳会のリーダーと登山ガイドの2人のトップがいることになり、パーティーによっては2人の力関係が、判断や行動に影響することもあるように感じます。
実際に、相談員として声をかけるとき、どの人がリーダーか探りながら声をかけましたが、さらにその人が登山ガイドなのか、山岳会のリーダーなのか、にも注意を払わねばなりませんでした。
知らない者同士の山岳会(?)あり、無線完備の山岳会あり
そのほかに変わったところで、44名と突出して大人数のパーティーがありましたが、あるインターネットのサイト(「山と人たち」)による募集に参加した人たちで、顔見知りではない者同士の集まりでした。
ネットを通じて集まっているところは、いわゆる「ネット山岳会」のようですが、募集段階からガイドが付くことになっているところなど、旅行会社のツアーのようでもあり、日本にはぴったり当てはまるものがない独特の形態のように見受けられました。ちなみにそのサイト(「山と人たち」)にはメンバーが約3万人もいるようです。
また、ある企業の山岳会(現代自動車)は見事に統率されていました。28名を3班に分けて行動し、各班2台ずつ無線機を携行していました。ここまでしっかりしたパーティーは珍しくてちょっと驚きましたが、この山岳会は、ヒマラヤの高峰への遠征隊も出しているようです。なお、韓国では会社単位で山岳会を組織することも一般的です。
地図、雨具はどうしている?
日本ではおなじみの休憩中に登山地図を広げる姿は、残念ながらほとんど見られなかったです。
旅行会社のツアーでは、簡単な概念図(例、右図)が装備表や注意事項と一緒に配られていますが、登山用の地図は入手しにくいかもしれません。(韓国では、日本の登山地図は出版されていないので、日本で購入する人もいます。)そのためか、上高地インフォメーションセンターのスタッフによると、外国語(英・中・韓)のパンフレット(地図と山小屋連絡先が掲載、北アルプス山小屋友交会作成)が飛ぶように出たとのことです。
雨具は、以前からポンチョで間に合わせていることが懸念されています。啓発する際も「雨具は必携」というのでは不充分で、「上下に分かれた雨具」と明確に示す必要があります。ある旅行会社ではツアー客向けの装備リストに「上下に分かれた雨具(ポンチョ型は不充分)」としっかり明記されていました。
今回、雨の日の様子を見ると、セパレート型の雨具の割合が多くなってきておりよい傾向だと思いますが、まだポンチョの人もいますので、引き続き呼びかける必要があります。(セパレート型でも、素材は透湿防水素材でないものが多いようでしたが、使用頻度や価格との兼ね合いがあるのかもしれません。)また、ザックカバーを使用する人が増えたように感じました。
相談内容― 何に困っているか
質問や相談は、登山そのものについてより、帰りの交通機関や下山後の宿泊についてなど、登山の前後のことがむしろ多かったです。これが、さらに上の稜線上などであれば、登山についての相談が多く出てきたかもしれません。
実際の相談内容や対応を記します。
●あるパーティーは南木曽の土石流によるJR中央本線の不通のため、入山のためにタクシー4台に分乗してタクシー代がかかり過ぎたので、「帰りは安く済ませたい、でも乗換えが多いのも大変だし」と困っていました。下山時、上高地で再度相談してジャンボタクシーを利用することになりました。
●バスの通行規制を知らなかったパーティーがありました。(運転手(韓国人)も把握していませんでした。)入山日はバスターミナルまで送ってもらったのに、下山日(バス規制日)にターミナルまで下りてきてもバスがいないと大騒ぎでした。電話もなかなかつながらず、運転手から「タクシーで沢渡まで来るように」という指示を受けるまでに1時間以上もバスターミナルで立ち往生していました。
●事情があって出発時間が別々になってしまったため、途中で落ち合おうとしたが、携帯電話が通じなくて困っていました。
●登山中にガスボンベを入手しようとしたができなかったという声がありました。
●荒天のとき予定(宿泊先・ルート)を変更するのに、われわれが思っている以上に苦労しているようです。山小屋などの情報を十分には把握できていないようです。
2013年の中アでの遭難で浮き彫りになりましたが、日頃の韓国内での登山では悪天候への対応があまり考慮されていないようです。(日帰り登山中心なこと、当局による入山規制があることがその理由でしょう。)登山計画における、予備日の設定や、エスケープルートの検討(宿泊地以外の山小屋などの情報把握も含めて)や、現地での判断などの啓発が今後重要かもしれません。
(2015年6月)
北アルプス上高地で韓国人向け登山相談員 2015年
ヤマテンの山の天気予報 韓国語版と英語版がスタート
その行動の背景がわかる 韓国のトゥンサンと日本の登山の違い
レポート 韓国の登山道や登山者、入山規制や標識について
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